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インプラント治療のメリットであり、入れ歯やブリッジ治療にはない良さの一つに「あごの骨を維持する」という特徴があります。あごの骨が痩せない、ということです。なぜインプラントだと骨は痩せないのか、入れ歯やブリッジとはどう違うのかご説明します。

インプラント治療は骨を維持する

長い間ベッドで寝たきりで過ごすと、足の骨が痩せてしまう、という話を聞いたことがあると思います。
骨は使わないと痩せてしまいます。なぜ骨は痩せるのでしょう。

必要なのは骨への刺激

骨には、骨を壊す細胞(破骨細胞)と、骨を作る細胞(骨芽細胞)とが働きかけています。
骨細胞とは、血液細胞の一種から分化したもので、血液中から出て骨にくっつき、酸や酵素を出して、古い骨のカルシウムやコラーゲンを溶かします(この現象を骨吸収と言います)。溶けたカルシウムは、血管に吸収されて血液とともに体内に運ばれます。仕事を終えた破骨細胞は消え、今度は骨芽細胞が現れます。骨芽細胞はコラーゲンを作り出しそこに糊となるタンパク質を塗っていきます。ここに血液中から運ばれてきたカルシウムが付着して、新しい骨ができるのです(骨形成と言います)。
この破骨細胞と骨芽細胞に、「骨を壊せ」「骨を作れ」という指示を出して現場監督のように働いているのが骨細胞です。

コラム1
命を保つカルシウム

私たちの体内のカルシウムは、99%が骨の中にあります。残りの1%は、血液や筋肉などの細胞の中に存在します。
このたった1%がとても重要なのです。
その昔、ロンドンでカエルの心臓を使った実験が行われました。ロンドンの水道水で作った生理食塩水を使うと心臓は動いたのに、蒸留水では動かない、ということがあったそうです。後にその違いとなった成分は、カルシウムであったことがわかりました。
カルシウム無しでは、私たちの臓器はうまく活動しません。そこで細胞中のカルシウムが減少すると血液から補充され、すぐさま骨から血液中にカルシウムが分泌されます。このように骨からカルシウムを出し入れして、体内の精密なバランスを保っています。

年齢と骨

人が生まれてから成人するくらいまでの成長期では、骨芽細胞の働きが強く、新しい骨が作られて体が成長します。背骨は20歳くらいまで、手足の骨は30歳くらいまで増加するといわれています。
30~40代で、骨形成と、骨吸収とのバランスがちょうど良くなります。
その後年齢を重ねるとともに、骨形成も骨吸収も全体に弱まってきますが、徐々に骨形成の衰えが著しくなってきます。つまり、骨が痩せる原因の一つは加齢です。
では、骨が痩せるのは高齢者だけかというと、そうではありません。若い人たちにも骨粗しょう症は起こります。最近、その理由がわかってきました。

必要なのは骨への刺激

骨量を維持するために必要なものが二つあります。一つはカルシウムやビタミンDなどの骨を作る栄養素、もう一つが骨に刺激を与える運動です。
栄養は食事から補うことができます。肝心なのはもう一つの「骨への刺激」です。京都府立大学の保田岩夫先生の研究報告によると、骨に圧力が加わると、「骨の圧電気現象」がおき、骨形成が促進されます。わかりやすく説明しましょう。骨は衝撃を受けると、現場監督の骨細胞が刺激を感知して、骨芽細胞に、「骨を作ろう」と指令を出します。しかし、骨に衝撃がかからない生活をしていると、骨細胞は「スクレロスチン」というホルモンを大量に出し始めます。このホルモンは骨芽細胞に「骨を作らない」という指示を伝えます。すると骨芽細胞の数が減り、骨は痩せてしまいます。

つまり骨への衝撃がなければ、年齢に関わらず骨は痩せるのです。逆に考えれば、骨に衝撃を与えていれば、高齢になっても骨を維持することができます。しかも衝撃は、長軸方向にあることが重要だと言います。ですから足の場合は、足裏を地面につくウォーキングやランニング、また縄跳びのようなジャンプなどがいいようです。同じ運動でも、水泳やサイクリングのような骨に衝撃を与えないものは、骨を強くするという点においては、効果は薄いようです(膝や腰など運動制限のある方は、どのような運動が良いか医師とご相談ください)。

コラム2
骨は「若さを生み出す臓器」

骨を作り出す骨芽細胞は、体に様々なホルモンを送っています。そのホルモンの一つ「オステオカルシン」は、記憶力や筋力を若く保つ力があることがわかってきました。また「オステオポンチン」は、骨髄に存在する造血幹細胞の機能を若く保ち、全身の免疫力を活性化する働きがあることがわかってきています。
このように骨は、単に骨格として体を支えるだけではなく、体を若く保つためにも役立っているのです。

あごの骨の場合は?

ではあごの骨の場合はどうでしょう。あごの骨も加齢と共に骨量が徐々に減りますが、刺激を与えれば維持することができます。その役割をしているのが、実は歯の根です。歯の根はあごの骨に埋まり、噛む力を骨に伝えます。骨はその垂直的な(長軸方向の)「程よい」刺激を受けて、生まれ変わりを促進しているのです。

「程よい」刺激とは

歯が抜けてしまったあと、骨にかかる力はどのように変化するのでしょうか。
何も処置を施さなければ、噛む力は0(ゼロ)になりますので、骨は徐々に痩せてしまいます。
入れ歯を入れるとどうでしょう。入れ歯には歯の根の部分がありません。粘膜を通じて弱い力が伝わる程度ですので、よほど適合の良い入れ歯でなければやはり骨は痩せます。特に合わない入れ歯が粘膜(歯ぐき)の上で左右にがたつくような場合、その力が骨吸収を促すようです。
ブリッジも、歯の根の部分がないので、やはり骨は痩せます。噛む力はほぼ回復することができますが、土台となる歯にその力が集中するので、土台の歯の根の周りの骨は、その強すぎる力によって壊されてしまい、やはり痩せてしまう場合があります。

では、歯周病が進んでも、自分の歯を抜かずに残しておけばいいかというと、それは逆効果です。重度の歯周病もまた骨を溶かしてしまうので、何がなんでも歯を残すことが良いわけではありません。
天然の健康な歯以外で「程よい」噛む力を再現できるのはインプラントです。インプラントは骨と結合し、自分の歯と同様に噛む力を回復することができます。
強すぎる力では逆効果です。骨は強すぎる力を受けると、溶けて再生が追いつかなくなります。その例が、矯正治療です。矯正治療では歯を動かすために、横方向に強い力を加えます。するとその力のかかる方向に骨が溶かされるので、歯の位置を移動させることができるのです。「私の歯は健康でなんでも噛めます」と、硬いものをガリガリ噛んで強い力を掛け続けると、天然の歯であれインプラントの歯であれ、周囲の骨が溶かされてしまいます。

コラム3
あごの骨が痩せると、どうなるの?

あごの骨が痩せるとは、どうなることなのか? 一体どんな弊害があるのか? 想像してみましょう。
あごの骨が痩せれば小顔になる、と思ったら大間違いです。上あごの骨が痩せると鼻の下が、下あごの骨が痩せると唇からあご先までの高さが低くなります。するとお口周りがクシャッとした感じになります。その上、頬や唇の肌にハリがなくなり、お顔が老けた印象になります。
また入れ歯を使用している人は、骨がやせれば形が合わなくなるので、作り直さなければいけなくなります。
さらに下あごの中には、下顎管という太い神経が通る管があり、骨が痩せると、この下顎管が骨の表面に露出してしまいます。すると入れ歯を載せただけでも痛みが出るようになり、食事ができなくなります。さらに極度に痩せると、少しの刺激で骨折しかねません。

インプラントで程よく噛みましょう

歯を失った後、あごの骨を維持できる治療法は、インプラントです。インプラント治療をして程よく噛むと、その刺激が骨を痩せさせずに維持することができます。
ただし、インプラント治療さえすれば良い、というわけではありません。先に述べたように、強くガリガリと噛んだり、ギリギリと歯ぎしりをしたりしているとインプラントの周囲の骨が壊されるかもしれません。またメンテナンスを受けずに放置すると、細菌感染のために周囲の粘膜が炎症を起こし、その影響で骨が溶けてしまうかもしれません。

骨を維持するために必要な栄養摂取のためにも、噛める歯が必要です。またジョギングやウォーキングなどの運動を続けるためにも、体のバランスが取れるよう、噛み合う歯が必要です。
きちんと噛める機能的な歯があることは、健康維持には欠かせません。歯を失ったら、歯の根まで再生する治療、インプラントをお勧めします。もしも自分の歯をすべて失った後でも、再び噛める歯を再生するワンデイインプラント®治療があります。インプラント治療は、骨を丈夫にするための要件を叶える、「命を守る」治療とも言えます。